冬場になると思い出されることは、寒さの中での樹脂取り作業の過酷さです。
私が学生の頃はまだFRPに対する知識も乏しく、今では考えられないことですが、ガスマスクをつけることなくポリエステル樹脂を使用していました。
しかも、寒さで樹脂が硬化しないことを恐れて、周りにはいくつもの石油ストーブをつけている中での作業は、今思えば本当に恐ろしいことです。
さすがに最近の造形現場では換気に気をつけるために樹脂室は屋外に設けられるのですが、ポリエステル樹脂の硬化は外気温に大きく影響を受けてしまいます。
ポリエステル樹脂の硬化を長い間待つために、徹夜したことも何度かありましたし、硬化を急ぐために促進剤を入れすぎたために、ポリエステル樹脂が沸騰してしまったり、そのために作品の表面にクラックが入ったりと、FRPの作業は環境的要因との戦いでもありました。
また、独立したアトリエでの樹脂取り作業は、常に周りの住人との関係を悪化してしまいます。何度か樹脂の臭いに関する苦情を受けることもありました。
そんな中でアクリル樹脂と出会った時には、本当に感動したものです。
まさしく劇的に作業環境が改善されました。
当時なら全く信じられないことですが、今では樹脂取りが室内で行えて、ポリエステル樹脂や使用後の刷毛を洗うためのシンナー等の人体に悪影響を及ぼす薬品などを必要としないために、樹脂取り途中でも周りに負担をかけることもありません。
アクリル樹脂は液体1の割合に粉末2の割合で混ぜることで硬化します。どんなに気温が低くても、20分ほどで確実に硬化が始まるので、作業の計画をコントロールしやすくなります。
場合によっては、硬化のスピードを早めたり遅くすることもできます。今の日本の住環境を考える時にこんなに理想的な素材はないと思います。
ポリエステル系の材料に嫌気が差している人はぜひ一度試されてみてください。
そして私と同じような感動を味わっていただけたらと思います。
アクリリックワンを使用するにあたって、使用量の目安を知りたい方は多いと思います。当社では、以下に紹介する計算式で使用量を概算割り出しています。
1ミリの厚みで1㎡の範囲を覆いたい場合は、1,75Kgのアクリリックワン樹脂が必要です。この計算式に当てはめておおよその量を割り出してください。
標準的な日本人男性の表面積はおよそ1,69㎡と言われていますので、1ミリの厚みで全てを覆うとすると1,75×1,69=2,975となって、およそ3Kgのアクリリックワン樹脂が必要であるということになります。
型に流し込んで制作する場合、最初の1層目は2ミリの厚みにします。次に私たちはトライアクシアルファイバーを3層張り込むことを推奨します。このためには1ミリの厚みのアクリリックワン樹脂を4層塗り込むことが必要になります。
通常1層目にはチックスAを添付してゲル状にしてから厚みをつけるようにします。必ず1層目が硬化してから次の層を添付するようにしてください。そして、トライアクシアルファイバーは添付したアクリリックワン樹脂が硬化する間に張り込んで、樹脂とファイバーが完全に密着するようにしてください。
例)等身大の男性立像を型に流し込んで制作する場合
(1層目2ミリ+トライアクシアルファイバー張り込み用4ミリ)×1,69×1,75=17,745Kg およそ18Kgのアクリリックワン樹脂が必要ということになります。
※ これらはあくまでも目安ですので、共通の決まりのようなものではありません。それぞれの使用状況によって変化することが考えられますのでご注意ください。